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訳語に正解はあるのか?
2025年3月27日
先日、静岡シネギャラリーで「教皇選挙 Conclave」を観てきました。
(この先、ストーリー内容に触れるので、これから観賞される方はご注意のほどを)
その中で印象に強く残ったのが、教皇選挙を取り仕切る主人公の演説。
“There is one sin which I have come to fear above all others… certainty. If there was only certainty, and no doubt, there would be no mystery. And therefore, no need for faith.”
私が一番懸念するのは、確信(certainty)だ。確信に凝り固まり、疑念(doubt)を抱けなくなると謎(mystery)は存在しなくなり、もはや信仰(faith)の必要はないのだ、と。
つまり、常に物事に対して疑いを持つことが大切だというセリフに、暗闇の中一人思わず頷いてしまいました。
証明書翻訳の仕事を始めて長いですが、始めた時と今とでは文書中の用語訳に少なからず変更はあります。もちろんその時どきで最適と判断した訳語で作成させていただいてきましたが、もしかしたらこう訳したほうがいいのでは?とか、別の単語にしたほうが相手が理解しやすいのでは?と、常々考えています。
例を挙げてみますと、改製原戸籍(戸籍法改正前の旧様式戸籍簿、縦書きのもの)という単語訳を探してみたところ、インターネット上で次のような訳語が出てきました。
(1) Invalidated family register
(2) Revised original family register
(3) Original source of re-established family register
統一された表現はなく、英訳している機関がそれぞれに作ったものです。
Invalidate=無効、to officially stop a document being legally or officially acceptable
Revise=改訂、to change or correct to improve something or fix mistakes
Re-established=復元、to return something to an earlier good condition or position
(ケンブリッジ辞典より)
(1)は、現在その戸籍は無効のものであること、
(2)は、元々の戸籍簿の改定版であること、
(3)は、復元前の元々の戸籍簿であること
のような意味合いになります。
私も当初は(1)のInvalidatedという単語をあてて訳文を作成しておりましたところ、ある外国籍のお客様から、原戸籍を大使館と現地の機関に提出するのだがInvalidated(無効)では誤解を招いてしまうのではと懸念を示され、熟考の末、
Original Family Register (Old Record)
と記載を変更することにし、現在もこの単語を使用しています。改製原戸籍の直接的な訳語ではありませんが、元々のもの(Original)であり、また法改正前のもの(Old record)であるということで、相手先機関に理解されやすい表現になったかなと思っています。
訳語によっては、これが絶対正しい、これ以外は間違っているということはなく、これからも訳者として常に情報を探り、自分自身のスキルアップを心掛けていこうと思わせてくれた映画でした。